声の主についていくと、覆面パトカーに乗せられ、事情聴取される。いきさつを何度も聞かれた挙げ句、「嘘をついても調べればわかりますからね」と言われた。
しかし私は、火を放ったのは義母だと確信していた。鎮火後、消防隊員と警察に呼ばれて義母の部屋へ。そこには、ブルーシートで覆われた義母の遺体があった。ベッドの足元に、石油ストーブのカセットタンクが落ちている。義母はこれで石油をかぶって、火をつけたようだ。遺体は病院に運ばれ、司法解剖されることに。
検死の結果、私の潔白は証明される。うずくまった姿勢のまま亡くなった義母の遺体は、普通の棺桶にはおさまらなかったようで、手足を切り離して大きいサイズの棺桶に入棺し、荼毘に付された。
自宅は全焼したため、しばらくは夫の上司が、経営しているアパートの一室を無償で貸し出してくれることになった。やがて、家の解体作業が始まる。パワーショベルで無残に崩されてゆくわが家を見て、涙が出た。十数年間の思い出がよみがえってくる。5日後、家は跡形もなく消え、敷地は整地された。
義父母の介護に費やした時間、費用、労力、気遣い。私は何一つ後悔はしていない。私にできる精一杯だったのだ。ようやく、私の心は解放された。