王室も何か手を打たなければ

ダイアナ元妃葬儀の様子(提供:読売新聞社)

これとは対照的に女王は沈黙を守り続けた。当時バルモラルに滞在していたウィリアムとハリーへの気遣いから、彼らをマスメディアから遠ざけておくという意味もそこにはあった。しかしそれは、イギリス国民の多くとはかけ離れた考え方だったのである。

ダイアナの死が報じられると、イギリス各地から無言の人々がロンドンに集まり、バッキンガム宮殿やケンジントン宮殿のゲートの前に花やキャンドル、カードを次々と手向けていった。人々は宮殿前からいつまでも去ろうとはせず、この「民衆の皇太子妃」のために涙を流し続けていた。

これを受けて新聞各紙(特にタブロイド紙)はロンドンから遠く800キロのかなたに閉じこもり続けている女王に対し、いっせいに非難を浴びせることになった。「あなたの国民は悲しんでいる。話しかけてください陛下!」(『ミラー』)、「あなたの哀悼を見せてください」(『エクスプレス』)。

さらにマスメディアは、バッキンガム宮殿に追悼の半旗を掲げるべきだとも主張した。「われらが女王はいずこに? 彼女の旗はどこに?」(『サン』)、「宮殿に半旗を掲げよ!」(『デイリー・メール』)。

女王不在時にロンドンで政府やスペンサ家(ダイアナの実家)と連絡を取り合って対応に追われたのが、女王秘書官のサー・ロバート・フェローズだった。実は彼はダイアナの義兄にあたっていた。妻ジェーンがダイアナの実姉だったのである。

その意味でもフェローズは王家とスペンサ家の仲立ちになれたし、ロンドンで実際に国民の多くの行動を見聞し、これは王室も何か手を打たなければならないとひしひしと感じるようになっていた。