「先の見えなかった暗い未来に、ぽっと灯りがともったような気持ちにさせてくれた」(提供:『余白』より)

もらった役にセリフがないきつさ

これまで私がチケットを買って足を運んでいた劇場の裏側で、こんなにも時間をかけて「熱」が形として練り上げられていたなんて、と感動した。本番よりも過程のほうがおもしろいんじゃないか、こっちをみんなに見せればいいのにと思ったくらい興奮した。

セリフのある役を最初にもらうことができたのも舞台だった。セリフのない役はきつい。

仕事をはじめたばかりのころ、テレビドラマでクラスメートAみたいな役をもらい、教室でただ座っていたときが、いちばん精神的にはつらかった。

誰も何も教えてくれないから、中央で演技をしている誰かの姿をただ眺めることしかできなくて、自分がからっぽになってしまったような気持ちになった。名前のない役の人間に対して厳しくあたるスタッフは残念ながら少なくなく、「今カメラが見えてない人、映らないからね」と容赦なく切り捨てられた。

じゃあどうして私はここにいるんだろうと、ただ、存在していることしかできない自分の無価値さを思い知らされた。