大坂なおみ選手は、2021年の全豪オープンも制した(写真提供:アフロ)

ウィリアムズ姉妹の活躍で、夢は決まった

マックスは、ハイチ共和国出身のアメリカ人です。出会ったのは、私が札幌の銀行で働いていたときでした。高校と短大で英語を勉強していた私は航空業界で働きたいと夢見たものの、厳格で保守的で、地元では名の知られた存在の父には逆らえず、自宅から通える金融機関に就職したわけです。

あるとき、仕事帰りに友人と遊びに行った店で声をかけてきたのがマックス。英語での会話がはずんだのをきっかけに、交際がスタートしました。

でも娘の就職に口を出すくらいの父親なので、輸入雑貨の仕事をする5歳年上の外国人――しかも黒人との交際など受け入れられるわけもありません。最終的に私は家出同然で、大阪で新しく店を立ち上げたマックスの元へ行き、結婚しました。

翌年にまり、その1年半後になおみが生まれましたが、生活は厳しかった。元々夫が住んでいた一間きりのアパートで家族4人、肩を寄せ合うような暮らし。正直、食べるものにも困っていました。

そんなある日、テレビでウィリアムズ姉妹の活躍(1999年の全米オープンで女子シングルスを妹セリーナが、同ダブルスを姉ビーナスとのペアが制した)を見たとき、「まりとなおみをプロテニスプレイヤーに育てよう!」という思いが夫婦の共通の夢になったのです。

先の見えない暮らしのなか、10代の黒人姉妹の活躍は、私たちに未来に踏み出す力をくれました。もちろんそんなふうに考えられたのは、まりの運動神経が、その可能性を信じられるくらい抜群だったからです。