なぜ医師は認知症の診断を早めに下すのか

ここで一つ、認知症について知っておくべきことを伝えさせてください。それは、医師は認知症の診断を早めに下すということです。

症状がとても軽く、日常生活にほとんど支障が生じていない場合でも、医師の多くは「認知症です」と診断します。

理由は二つあります。

一つは、早めに治療を始めたほうが、認知症の進行を遅くできる可能性が高くなるからです。根本的な治療薬の研究は進められているものの、現在はまだ進行を遅らせる治療がメインなのです。

もう一つは、認知症と診断すれば、介護保険を利用できるようになるからです。日常生活に支障がない軽度でも、認知症という診断が出れば一番低いレベルの「要支援1」に認定されるので、週2回ほどデイサービスを利用できるようになります。

デイサービスに行けば、他の人と会話をしたり、体を動かす活動をしたりするので、認知症の進行を遅らせることが期待できます。これは、要介護の状態にならないようにする一つの工夫で、「介護予防」とも呼ばれます。

デイサービスの利用で、認知症の進行を遅らせる傾向が見られる(写真提供:Photo AC)

医師は、治療の面だけでなく、介護の面でのメリットも考えて、わずかな症状でも脳の画像で明らかに萎縮が見られれば認知症と診断を下すわけです。

私の経験においても、デイサービスに行って多くの人と交流することは、認知症の症状の進行を遅らせる傾向が見られます。逆に、認知症と診断されて人との交流を減らしてしまう人は、症状の進行を速めてしまうように感じています。

※本稿は、『80代から認知症はフツー ─ ボケを明るく生きる』(興陽館)の一部を再編集したものです。


80代から認知症はフツー ─ ボケを明るく生きる』(著:和田秀樹/興陽館)

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