事件のその後

事件の1年後の21年11月、新宿で追悼集会が行われ、女性たちがふたたび集まった。22 年になっても、バス停には花が手向けられていた。

ホームレスが襲撃されたのは、何も今回が初めてではない。20年1月には上野にいた女性が男性からの暴力を受けた。また同年3月、岐阜で80代の男性ホームレスが大学生から暴行を受けた。双方とも亡くなっている。80 年代から現在まで、ホームレスの襲撃事件は、わかっているだけでも27件だといわれている。

21 年12月には、新宿歌舞伎町界隈などで寝泊まりしながら清掃ボランティアをしていた、ホームレスの男性(43歳)が“トー横キッズ”と呼ばれる若者たちに殴られて死亡している。

いくつもの事件がある中で、大林さんの事件はなぜ心を揺さぶるのか。それはこの事件に、明日の自分を見ているからである。

「ひょっとしたら、将来の私かもしれない」

女性たちは、そこに共有できる不安を抱えている。

「事務所からすぐ近くで起きた事件。もしかして救えたかもしれないと残念でならない」

と、渋谷区に事務所がある林治(はやしおさむ)弁護士は後悔の念にかられていた。

「本当にちょっとしたきっかけでホームレス状態にまでおちいってしまう人がたくさんいる。今は動いているからなんとかなっているけれど、止まったら途端に、生活が苦しくなっていく人は多いと思います。

僕のところにも毎月ならかろうじて家賃を払えるけれど、家賃の更新時期にやはり苦しく、そこで生活がたちいかなくなるという話も聞きます。きっと潜在的に家の問題で困っている人たちがいるのだと思います」