エアコンの存在を忘れる母は、「寒いの」と会社に電話をかけてくる(写真提供:Photo AC)

入院も手術もできない家庭の事情

同居している4歳年上の独身の兄は、大学を卒業後、統合失調症になった。当時は精神分裂病と言われ、兄は妄想と幻覚が起きて入院したが、薬が効いて、家族と暮らすことができるようになった。

現在、精神病の患者の社会復帰についてマスコミが取り上げ、家族に患者がいることを本などで発表にする人がいる。私の若い頃は、社会の偏見が強く、兄が精神病であることで私は見合い話を断られたことがある。

私の父は自営業だったが借金が多く、家族は苦労の連続だった。私が40歳の時、父は難病になり母は父が亡くなるまで6年間介護をした。兄は社会に出て働けないため、一家を支える働き手は私だけだった。

そして、80歳を過ぎた母に認知症の症状がみえだした。

母はよく会社に電話をかけてきた。

「寒いの。石油ストーブの灯油が切れたから入れてね」と母は言う。

「今、会社で仕事をしているの。自分でエアコンをつけて」と私が言っても理解しない。

エアコンの操作の仕方を、私が分かりやすく絵にして壁に貼っておいたが、エアコンがあることを忘れているのだ。

兄はエアコンをつけられるが、昼夜逆転していて寝ている。

母は「何を食べるか分からなくなった」とも電話してきた。食べ物を用意しておいても、「腐っている」と思い、捨ててしまうのである。

母は近くのコンビニには行け、買ってきた弁当を皿に取り分け、自分が作ったと思い込んで、「味が濃かったかね」とか言うのだ。