サンマのおかげなのだろうか
私は毎日夕方から父の家に行き、食事作りや家事をして、父が眠たそうになったら夜の薬を飲ませて帰るという生活パターンが身についてきた。週に1、2度、夜中にジムに通う余裕を取り戻しつつある。先日、ジムの休憩室で、50歳位の女性から声をかけられた。
「あの、お父さん、お変わりないですか?」
お顔は見たことはある気がするけれども、名前も存じ上げないその人が、なぜ父に興味があるのか伺いたかった。
「気にかけていただいて、ありがとうございます。なぜ父のことを……」
と言いかけた私に、その人は明るく答えてくれた。
「オーマイ・ダッド! いつも読んでいたんです! 最近、婦人公論のネットに載っていないから、お父さんの具合が悪いのかと思っていました」
「いいえ、父は元気にしていますよ」
すると、その人は大きくうなずいて、思いがけないことを言った。
「やっぱりサンマのDHAって、効果あるんですね!」
「オーマイ・ダッド!」を読む中で、父が毎日サンマを食べたがるシーンがすごく印象深かったのだという。お母さんが認知症になりかけていると前置きした上で、その人は明るく語る。
「私も母にサンマをたくさん食べさせて、脳神経の働きを活発にさせなきゃ!」
感想を言われて気分が上がった私は、サンマに関して、以前エッセイに書かなかったことを教えたくなった。
「実は、10日間で6回サンマと書いた後も、父は毎日サンマが食べたいと言い続けていました」
その人は興味津々な様子で私に聞く。
「お父さん、サンマを食べ続けても飽きなかったのですか?」
「はい。父は前の日にサンマを食べたことを忘れているので、毎日リクエストするんです。1か月に20回サンマを焼きましたよ」
認知症かどうかに関わらず、人はそれぞれに体や脳が欲する栄養素があり、父にとってはそれがサンマだったのだろう。サンマのDHAが脳の活性化に繋がったかどうかは定かではないが、父の認知症がそれほど進まずに新年を迎えられたことは、娘としてありがたく思っている。