べリーが揺り椅子を眺めているのに気づき、
「そこには祖母が座っていました」
 彼女もまた揺り椅子を眺めていました。
「でも、祖母は天に召されて、とうとう、わたしは一人きりです」
「ご両親は?」
「父と母は事故で亡くなりました。わたしだけが、どうにか命びろいをしたのです」
 彼女が台所に立ったとき、右足をかばいながら歩いているのに気づいていました。
 ベリーはいま一度、揺り椅子を眺め、そのうしろに、びっしりと本が並んでいる本棚を見出しました。
「それはすべて、祖母の本です」
 見るからに昔の本ばかりが並んでいるのを確かめ、(なるほど)とベリーは頷きました。
「おばあさまは本が好きだったのですね」
 彼女が「願ってもないこと」とつぶやいたのは、きっと、それらの本を買いとってほしいからではないかと察しました。ところが、
「探しているものがあるのです」
 どうやら、彼女は本を売りたいのではなく、手にしたいものがあるようでした。
「昔の街の地図がほしいのです」
 飲みかけのコーヒーをテーブルに戻し、「お安い御用です」とベリーは上着の内ポケットから手帳を取り出しました。
「古い地図ならいくらでもありますよ。いつごろのものですか」
「争いが始まる前の──祖母が若かったころの地図です」


 屋台に組み込まれた引き出しから、彼女が探している半世紀以上前の地図をベリーは持ち出してきました。しわをのばしてテーブルの上にひろげ、重しのかわりにコーヒーカップをふたつ、古びた地図の上に置きました。
「私は足が不自由になってから街へ行ったことがありません」
 彼女は地図に刷られた細かい路地のひとつひとつを目で追っていました。
「祖母は若いころ、図書館で働いていたと聞いています。街の中心から少しはずれたところにあったそうで──」
 ベリーは首から提げていた虫眼鏡を手にし、地図に顔を近づけながら図書館を探しました。