「抜け道」のためのセレモニー
本人は「スタッフで残るより、民間に出るほうがいい」と決めていたので、その旨を官房長に伝えると、こんな指示が返ってきた。
「君はこれから、何人かのOBのところに挨拶回りすると思うが、必ずXさんのところに行きなさい。いろいろアイデアを出してくれると思うので、Xさんへの挨拶だけは忘れないように……」
ほどなくしてX氏のオフィスを訪ね、雑談していると、「実は、こんな話があるんだが」と前置きして、いきなり本題に入った。
「間もなく自分の任期は切れるが、私の後釜としてこちらに来てもらえればと思っている。正式決定は9月下旬になるだろうが、この話はほぼ内定してると受け止めてもらっていい」
この会社は都内の中堅企業といったところだが、本人が以前役所で担当した化学系の会社で、多少の土地勘があった。X氏に「いろいろお世話になります」と笑顔で謝意を述べると、「まあ、ここでひと踏んばりしてください」と励ましの声をかけられた。
ここまでの一連の流れが、再就職の斡旋や仲介が禁止された後の天下りのセレモニーといえるものだ。