お芝居であることを忘れるリアルな撮影現場
スリランカ国籍のクマラさんのキャスティングに際して、スリランカ大使館にも協力を仰ぎ、約300名のオーディションの末に選ばれたのがオミラ・シャクティさんだった。オミラさんは、本作が演技初挑戦。にもかかわらず、「オミラさんがいなければ、このドラマは完成しなかった」と優香さんが感じるほどに、周囲が心を動かされる演技だったそう。
オミラさんの演技は、毎回新鮮なんです。目や心が純粋で、吸い込まれてしまいそうな表情をされるんですよ。目だけですごくいろんな感情を物語る人だったので、その気持ちを私もきちんと受け止めたいと思いながら演じていました。この役はこうしよう、ああしよう、と特別意識したわけではなく、目の前にいるクマさんと対面した時の気持ちや、湧き上がるものをお互い大事にしていたような気がします。なので、何度も撮り直すということはあまりありませんでした。
実際のオミラさんがクマさんのキャラクターとリンクする部分が多くて、お芝居だということを思わず忘れる瞬間がたくさんありました。優しくて謙虚なところとか、ピュアでまっすぐなところ、仕草も含めてクマさんそのものなんですよ。とにかく、言動や行動に人柄があふれ出ているんです。だから私は、撮影以外の時間でもずっと「クマさん」と呼んでいました。
クマさんが入管に収容されてしまって、触れ合うことさえできなくなるシーンがあるんですけど、本当に苦しくて悲しい気持ちになったんです。反対に、クマさんの笑顔を見ると、心の底から嬉しい、楽しい、もっと笑ってほしいと思えて。
一番思い出深いのは、プロポーズのシーンですね。プロポーズシーンの撮影時、クマさんがずっと手に汗握って緊張しているんですよ。撮影だから緊張しているというよりも、「プロポーズをする」ことに対して緊張している。その雰囲気が本当にリアルで、私自身、これまであまり経験のない新鮮な感覚を味わいました。
印象深い撮影シーンは、他にもたくさんあります。クマさんが収容されるシーン、娘のマヤが私に不満をぶつけるシーン、「クマさんがここにいたのにな」と思い返すシーン……全てがリアルなトーンで進んでいくのですが、裁判のシーンは特にリアルでしたね。通訳の方とクマさんの背中を傍聴席から眺めている間、本当に苦しくなってしまって。今回のドラマは切ないシーンが多かったので、尚更楽しかったプロポーズのシーンが心に残っています。