夢のような記者会見

祝福ムードに包まれるエンゼルスとは対照的に、選ばれなかった球団関係者は自らの運命を呪った。

「大谷翔平に選んでもらえなかったのは残念だが、彼がアナハイムでいいプレーをすることを願っているよ」

レンジャーズのGMであるジョン・ダニエルズはmlb.com に語った。

「彼はフィールドの中でも外でも、常に印象的だった。もしもわれわれに意見を求めてくれたら、ナショナル・リーグをすすめたのに」

ダニエルズは少なくともジョークを飛ばす元気はあったようだ。しかし、大谷がエンゼルスを選択してから8カ月以上経っても、西海岸の某球団のGMはまだ意気消沈していた。

「大谷はうちのチームにぴったりな逸材だったし、われわれは彼を獲得するために、ありとあらゆる努力をしたはずなんだ」匿名を希望するこのGMはそう話した。「大谷の才能は独特だし、あのメンタルの強さも素晴らしい。だからこそ、今でもこのことを話すのはつらい。彼の決断の本当の理由を知ることはないだろうけど、この話題を避けたいという気持ちは当分変わらないだろうね」

それだけに、エンゼルスで大谷が6年間プレーするという事実は、球団とファンにとっては天からの贈り物に等しかった。

「おそらく彼は、チームが家族同士のような温かい雰囲気なのを見て、そういった場所を自分が望んでいることに気づき、今後長い年月を一緒に過ごしたいと思ったんだろう」GMのビリー・エプラーは、エンゼルス専門のラジオ番組AM830でそう語った。「われわれの用意したプランだけがよかったのではなく、関係者の親しみやすさ、球団全体の雰囲気が気に入ったんだと思う」

エプラーはそれ以上勝利の秘訣を明かすことはなかった。その代わり、大谷が最大限に力を発揮するために、本人の発言権に比重を置くつもりだと明かした。

「われわれのプランは翔平の過去の(日本プロ野球界での)実績を参考にしたものなので、特に詳細に説明するつもりはない。このプランでもっとも重要な存在は、翔平本人なんだ。自らの意思で向上していき、自らの練習を管理することに慣れてもらう。このプランで、翔平は積極的に動いていくことになる」

大谷のための青写真が完成し、プランが実行に移される。最初に行われるのは、入団会見だ。声明発表の翌日、エンゼル・スタジアムの正面口両脇にある巨大な赤い野球帽のモニュメントの下には、大谷翔平の姿を一目見ようと新たなファンが大勢詰めかけていた。

それはまるで夢のような記者会見だった。世界でもっとも注目を集めている野球選手、つまりこの会見の主役も同じ気持ちだっただろう。

※本稿は、『大谷翔平 二刀流メジャーリーガー誕生の軌跡』(辰巳出版)の一部を再編集したものです。


大谷翔平 二刀流メジャーリーガー誕生の軌跡』(著:ジェイ・パリス、訳:関麻衣子/辰巳出版)

エンゼルス移籍か残留か――
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