作家で僧侶の家田荘子さんは、不倫、少女売春、風俗、高齢者の性など光の当たっていない世界を取材してきた。そのようななか出会ったのは30歳を過ぎて性経験がない女性、大人処女。彼女たちは、なぜそれを選択したのか。今回は、由紀さん(仮名)の価値観と生き方を記したノンフィクションを3回に渡ってお届けします。旅行から帰宅した2人の陽だまりのような幸せは長くは続かなかったそうで――。
あいかわらず紳士的な彼
旅行から帰宅してからも、やっぱり鍵をかけて別々の部屋という生活が続いた。ついにできたからといって、毎日したがるような彼ではけっしてなかったのだ。あいかわらず紳士的で、由紀さんを見守り、愛し続けていた。
その陽だまりのような幸せは長くは続かなかった。肝硬変の持病を持つ彼が家で吐血し、救急病院へ駆け込んだまま入院となった。
医師からは「肝硬変の一番悪い状態で、いつまた吐血するかしれないので、飲酒は絶対に禁止」と、深刻な注意を受けた。しかし、酒好きな彼は、忠告を聞かなかった。
退院しても、彼は医師と由紀さんの言うことをまったく聞かず、お酒を飲み続けたのだ。
これまで通り由紀さんを飲みに連れ歩き、由紀さんがどんなに注意したり、「一緒に飲み歩くのをやめる」と脅しても、彼は「もういいじゃないか。楽しくやろうよ。楽しく飲ませてくれよ」と、笑って飲み続けた。
記念旅行から帰ってきたあと、「たまにはやらない?」と、彼が誘ってきていたしたのは、「本当に数えられるだけ」の数回だったそうだ。