体が動かなくても「これはまだできる」を大切にする

行動経済学の創始者であり、ノーベル経済学賞受賞者であるダニエル・カーネマン氏は、人間の幸福度は「参照点(自分が設定した基準)」に反応すると述べています。

たとえば、人の心理とは、1億円持っていたとしても、1000円を損したら、とても悔しい気持ちになります。ところが、1000円しか持っていない人が100円を拾うと「とても幸せ」と感じます。

つまり、人間は、自分が設定した参照点より落ちてしまうと不幸だと思うし、それよりわずかでも上がると幸せだと感じるのです。

この参照点は人によって異なり、人の幸福度は参照点によって決定づけられます。参照点をどこに置くかは、自分自身で決められます。

ささやかな出来事に幸せを感じられる心を持ちたいならば、参照点を低く設定すればよいのです。幸せの価値観とは人それぞれなので、何が正しく、何が間違っているということはありません。

ただ、私の臨床経験では、今あるものを大切に生きている人たちには、家族や周りの人とも楽しく暮らしている傾向が多く見られます。

たとえば、体が老いていっても、「これはまだできる」「自分には大事なものがたくさんある」と「あるもの」を大切にできるのは、幸せの参照点が低いためです。

反対に、老いを嘆いて、「あれができなくなった」「これだけしかない」と「ないもの」の数を数えながら生きている人がいます。この感覚は、若かった頃の自分に参照点が置かれていることの表れです。

「まだあるものを喜ぶ」か「ないものを嘆く」か。あなたの考え方次第で、幸せは得られるのです。

※本稿は、『65歳から始める 和田式 心の若がえり』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。


65歳から始める 和田式 心の若がえり』(著:和田秀樹/幻冬舎)

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