ローン返済の残金

年金生活者でありながら、最後までお買い物を楽しんだ母。三十六回払いのローン残金請求書は、死後、すぐ私のところに送られてきた。着物もジュエリーも、懇意の呉服屋さんで買ったものらしかった。

こういう親の借金は、未使用のものは返品すれば返さなくてもいいらしいが、それでは母が浮かばれないだろうと、合計百五十八万円のローンは完済した。買ったばかりでまだしつけのとっていない着物、帯、羽織、新品のジュエリーは、口惜しいので私がもらった。

大粒の真珠のネックレスは、しばらく遺影にかけておいてあげた。一度も着けられなくて残念だったろうから。

イタリアの職人に作らせたというカメオのブレスレットは、どこか素敵なところにお出かけするたんび、着けて行った。裏には

「ラブ エテルノ サチコ」と彫らせてある。永遠に、愛す。サチコ。

「は~」

私はうなだれた。

「このブレスレットはお母さまが、二人のお嬢さんとお孫さんにひとつひとつお分けになるつもりで作らせたものです」

と呉服屋さんの手紙にあった。でも、支払いをしたのは私なので、私がもらっておいた。

三つのカメオがつながってブレスレットになっているものを、ばらしてペンダントなりに作り変えるのも、またお金がかかるから、それはなしだ。