「したい」のに「できない」から苦しい

家の外へ一歩出たら当たり前のように老若問わず異性は大勢いる。なのに、真衣さんの苦しみを解決してくれる男性は今のところいない。

「20代前半はよかったんですけど、20代後半に入ると、『できない』ってことで軽く引かれちゃうことが多かったように思います。『珍しいね』と、よく言われました。私の見た目は『経験がまったくない人』には見えないらしくて、意外がられることはよくありました。嘘じゃないかって、疑われることだってあったんですよ」

だから真衣さんは、何が何でも「意外でなく」なるよう、生理用品でも練習をしてみた。「1、2回でしたけど、タンポンはギリギリ入りました。でも、正しい位置に入ってなかったみたいで、紐が切れて病院へ行って余計に怖くなりました。お風呂に入る時にも、指が入るかどうか試しに自分でやってみたりするんですが、せっかく指が入っても、1週間後には、痛くなって指が入らなくなっている。また最初に逆戻りして繰り返し、繰り返し。だから普段はあまり考えないようにしているんですね」

自ら「しない」と選択しているのでなく、「したい」のに真衣さんの場合は「できない」から苦しんでいる。

その苦しみは、こうして取材をしてみなければ、私には解(わか)らないことだった。かつて、食品アレルギーに対してまだ理解が薄かった頃、複数のアレルギー持ちの私は、よく人に「皆が普通に食べているものは食べられるように努力したほうがいいよ」と言われ、憤りを呑み込んできた。

「普通でない」と軽く言われてしまうことの苦しみはつらい。真衣さんの場合、人に言えない苦しみや、「皆と違う」だけでなく、異性との出逢い、結婚、出産にも影響してくる。あえて「しない」を選択しているのではなく、「したい」のに「できない」から苦しんでいるのだ。

「できる人、できない人がいてもいいんじゃないかって思うんですけど、世の中、できる人のほうが圧倒的に多いんです。皆、やってきてることなのに(なんで私だけ? なんで私だけできないんだろう)って思いますよね。大前提として、ちゃんと挿入ができるようにならないと、結婚どころか恋愛だってできないんじゃないかと……」

結末はこちら:「結婚してからやらなくなるのと交際前からできないのは違う」「できないためにその人が他の女に逃げたら、私が悪い」痛みが原因で<できない>32歳女性を家田荘子が取材【後編】

※本稿は、『大人処女ーー彼女たちの選択には理由がある』(祥伝社新書)の一部を再編集したものです。


大人処女ーー彼女たちの選択には理由がある』(著:家田荘子/祥伝社新書)

30歳を過ぎて性経験がない女性、大人処女。彼女たちは、なぜそれを選択したのか。著者は、梓さんを含む9人に寄り添うように取材、すこしずつ聞き出していく。そこには、9者9様のドラマがあった。さまざまな価値観と生き方を伝えるノンフィクション。