「寝ずに仕事をしていると、《もう限界だ》となる瞬間は何度も訪れるのですが、ここでうっかり30分寝てしまうと締め切りに間に合わない」(撮影:大河内禎)
『アリエスの乙女たち』『あした輝く』『天上の虹』など500を超える作品を発表し、長年にわたり多くの読者に支持されてきた里中満智子さん。近年は国内外で漫画家の権利を守る活動や後進の育成にも尽力しています。その源にあるのは、幼き頃から変わらぬ決心でした。(構成:丸山あかね 撮影:大河内 禎)

30分寝てしまうと間に合わない

私は高校2年生の16歳で漫画家としてデビューしたので、今年で画業60年。振り返ると、若い頃はよくもまあ、あんなに馬力があったな、と思います。

一番忙しかったのは20代、連載を8本も抱えて、毎日が締め切りでね。私はセリフの組み立てに一番時間がかかるんです。それが終わったら、絵を描くのは体力勝負。2晩徹夜して仕上げるという強行軍でした。

寝ずに仕事をしていると、「もう限界だ」となる瞬間は何度も訪れるのですが、ここでうっかり30分寝てしまうと締め切りに間に合わない。同じ雑誌で連載しているほかの先生方に迷惑をかけないようにと必死でしたね。

当時、手塚治虫先生の会社で発行していた『COM』という漫画雑誌がありました。その中で、漫画家の「総原稿枚数ベスト10」が毎月発表されるんです。たいてい、石ノ森章太郎先生か水島新司先生が1位。

でも、ベスト10に私の名前はない。枚数を見ると、私のほうが描いているのに! 漫画界も男中心で、少女漫画なんて端から計算に入らない、そういう時代でした。

編集者が調べたところでは、私は月に700ページも描いていたとか。若さってすごいですね。76歳になり、体力がガクンと落ちた今では考えられません。