(写真提供:Photo AC)
地図を読む上で欠かせない、「地図記号」。2019年には「自然災害伝承碑」の記号が追加されるなど、社会の変化に応じて増減しているようです。半世紀をかけて古今東西の地図や時刻表、旅行ガイドブックなどを集めてきた「地図バカ」こと地図研究家の今尾恵介さんいわく、「地図というものは端的に表現するなら『この世を記号化したもの』だ」とのこと。今尾さんいわく、「日本の地形図はかつて国鉄と私鉄の2分類であったが、実はこの記号で分類されたのは『昭和30年図式』から」だそうで――。

鉄道・軌道発達の刻印

日本国有鉄道―国鉄が分割民営化され、JRグループが誕生したのは昭和62年(1987)、今から36年も前のことである。

国鉄という言葉を身近に使っていた世代もすでに40代以上になった。

戦前も国有鉄道は存在したが、大正9年(1920)から第二次世界大戦中の昭和18年(1943)までは国の省庁のひとつである鉄道省が監督業務のかたわら鉄道路線の経営も行っていたため、「省線」の呼び名の方が一般的だったようだ。

山手線など後に国電と呼ばれる路線は「省線電車」であった。

思えば「国電」という言葉も使われなくなって久しい。JR発足の際にはこれに代わる用語が求められ、JR東日本では著名人らが選定に関わって「E電」なる言葉を新造したが定着はせず、ほどなく忘却された。

さて、日本で鉄道に関する地図記号といえば、国鉄に馴染んだ世代は「国鉄」と「私鉄」の記号を思い浮かべる人が多いかもしれない。

現在の地形図では、鉄道の記号は主に「JR線」と「JR線以外」に分類されている。JR線は旧国鉄の記号を流用したもので、2重線の中を黒白交互に塗り分けることから、地図業界ではハタザオなどと呼んでいる。

日の丸を掲揚しない家が多数を占める今となっては、このハタザオ(旗竿)という言葉さえピンとこないかもしれないが。

この記号のルーツをたどれば、明治期に日本が地形図を学んだドイツの記号にたどり着く。