映像ディレクター・映画監督の信友直子さんによる、認知症の母・文子さんと老老介護をする父・良則さんの姿を描いたドキュメンタリー映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』は大ヒット作品に。そして母・文子さんとのお別れを描いた続編『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』の公開から2年半、104歳になった良則さんは、広島・呉でひとり暮らしを続けています。笑いと涙に満ちた信友家の物語から、人生を振り返るきっかけを得る人も多いはず。そこで、直子さんがその様子を綴った『あの世でも仲良う暮らそうや』から、一部抜粋してご紹介します。
99歳父のひとり暮らし
母が旅立って、99歳の父は一人になってしまいました。2020年6月、新型コロナ感染症で世間が大騒ぎだった頃です。
私は父が心配でした。あんなに母を愛していたのに、喪失感の大きさはいかばかりか、容易に想像できたからです。妻が亡くなると夫が後を追うように亡くなるという話もよく耳にします。父もガックリ来て、生きる気力をなくしてしまうのではないか。そう思うと気が気ではありませんでした。
実際、しばらくはボーッと物思いに沈むことも多かった父。私を呼ぼうとしてつい、
「お母さん」
と口にすることもあり、胸がしめつけられました。そんな時はどう反応したらいいかわからず、気づかないふりをするので精一杯でした。