「この国で各地の地裁に起こされた民事訴訟は年間14万件、起訴された刑事事件は6万件。そのうちニュースとして報道されるのは、ごくごくわずかな一部にすぎません」と語るのは、日本経済新聞電子版の「揺れた天秤~法廷から~」を連載した「揺れた天秤」取材班。そこで今回は、この大好評連載をまとめた書籍『まさか私がクビですか? ── なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』より一部を抜粋し、<学びになるリーガル・ノンフィクション>をお届けします。
1人の住人が乱す平穏
「103 備忘録」─。部屋番号が記されたメモに、男性入居者が繰り返した行為が時系列に沿って記されている。
一番古い記述は2014年10月。管理組合の理事長にとって10年に及ぶ「苦闘の歴史」だった。
築年数こそ古いが、最寄り駅からも歩いて数分と立地は申し分ない。住人は地域に根付いた学者や経営者が多く、賃貸で入る若い夫婦も溶け込んでいた。
理事長は40年以上にわたって、そのマンションで平穏な生活を送ってきた。