(撮影:岡本隆史)
演劇の世界で時代を切り拓き、第一線を走り続ける名優たち。その人生に訪れた「3つの転機」とは――。半世紀にわたり彼らの仕事を見つめ、綴ってきた、エッセイストの関容子が訊く。第40回は歌舞伎役者、俳優の中村獅童さん。色々な問題が重なりどん底にいたとき、内田裕也さんの言葉に救われたそうで――。(撮影:岡本隆史)

前編よりつづく

今でも時々夢で叱られる

獅童さんは現在、後進の役者を引き立てられる立場になっている。最近、澤村精四郎(きよしろう)という名跡を復活させた。

――ええ、20年以上前にご病気になって、ずっとお休み中の澤村藤十郎お兄さんのお弟子の國矢(くにや)君ですね。藤十郎お兄さんも、僕がまだ誰とも喋れない時代に優しく声を掛けてくれてましたからね。

國矢君は僕の超歌舞伎で、ヒーローと対決する、まぁ悪役をずっと務めてて、初音ミクちゃんのファンたちの間で、國矢君格好いい、ってちょっと火がついて。

でもその人たちが歌舞伎座へ見に来てみると、ほんの一瞬で出番が終わっちゃうから、がっかりさせちゃう。彼は腕もあるし、幹部にしてもっと活躍できるように、って会社にお願いしたんですよね。

それで藤十郎お兄さんが前名の精四郎をくだすったんで、去年9月の南座と、暮れの歌舞伎座『あらしのよるに』の狂言半ばで、僕と二人並んでご挨拶したんです。

これ、あんまり歌舞伎界になじみのない方たちには普通のことでも、こちらの世界にとっては大きな出来事で。門閥以外のお弟子さんたちも努力すれば道が開ける。それでみんなが頑張れば芝居がよくなるしね。