警官に映画を演説した中学時代
往年の「新劇」と称された頃の文学座には、名女優杉村春子を始めとして、長岡輝子、加藤治子、丹阿弥谷津子、南美江、岸田今日子、小川眞由美、そして太地喜和子。
男優は三津田健、芥川比呂志、宮口精二、加藤武、中村伸郎、北村和夫、仲谷昇、小池朝雄、山崎努、橋爪功、江守徹……と、錚々たる顔ぶれが揃っていた。たとえその舞台を観ていなくても、その名を知らない人は少ないと思われる。
小林勝也さんの舞台で、強烈な印象を刻みつけられた作品と言えば、ジョン・フォード作の『あわれ彼女は娼婦』(1970年)をおいてない。太地喜和子扮するアナベラの実の兄ジョバンニが小林さんで、広くない文学座アトリエのステージでものすごい愛欲シーンが繰り広げられるのにはたまらず目を伏せるほどだった。
――そうでしたか(笑)。あれは強烈でしたね。私の記憶ではヴィスコンティが演出した、アラン・ドロンとロミー・シュナイダーの舞台があったらしいですよ。
アラン・ドロンはベトナム戦争に従軍してて、十九かそこらだったと思いますが、ディエンビエンフーが陥落したので引き揚げてきたところを、美男だったんでヴィスコンティの目に留まったんですね。
文学座ではあの頃、エリザベス朝の演劇をやってみようということで、その連続上演第一作でした。これが爆発的に当たりましたね。しかもアトリエを改装する前年で、杉村春子さんが長い間旅公演でいない間に、若手たちが舞台を壊してフラットにしちゃったんです。杉村さん、帰ってきて、一瞬唖然としてましたけど、怒らなかったですね。
あの芝居は、喜和子も僕も全裸で、白い布でうまく隠したりしましたけど、後ろ向きで立つと全裸とわかる。妹の腹を切り裂いて胎児に剣を突き刺して、妹の夫が差し向ける刺客たちに殺される、というんだから、もう強烈な芝居でしたね。