「東京で会社員を目指そうかとも考えたのですが、母から〈会社員になるなんて夢みたいなことを言ってないで、コツコツ真面目に芸術をやりなさい!〉と活を入れられて」(撮影:西田香織)
裏社会を舞台に繰り広げられる激しい暴力と、2人の女性の繋がりを描いた小説『ババヤガの夜』が、イギリスの「ダガー賞」を受賞し、話題になっています。アメリカの「ラムダ文学賞〈LGBTQ+ミステリー部門〉」の最終候補作にも選出され、ますます注目を集める王谷晶さんに、創作にかける思いを聞きました。(構成:野本由起 撮影:西田香織)

自由すぎる両親に育てられて

2025年7月、バイオレンスアクション小説『ババヤガの夜』で、英国推理作家協会主催の文学賞「ダガー賞〈翻訳部門〉」を受賞しました。初めての英訳本で、こんなにも大きな賞にノミネートされただけでも驚きだったのに、まさか日本人初の受賞となるなんて。大変うれしく、光栄に思いました。翻訳者のサム・ベットさんには感謝しかありません。

両親もとても喜んでくれているのですが、反響の大きさに少し戸惑いもあります。テレビや新聞で大きく取り上げていただいたことに加え、この目立つ風貌のためか、行きつけの飲食店や美容院に職業がバレてしまいましたから。(笑)

もともと私は、絵よりも字で落書きをするような子どもでした。アスリートが体を動かさないと落ち着かないように、今も私は文章を書かずにはいられません。そんな性分ですから、「作家を志す」というほどの強い意志はなかったものの、「いつかは小説家になるのだろう」と、物心がついた頃から将来を漠然とイメージしていました。

両親は、東京から田舎にふらっと引っ越して、DIYで家を建てるような自由な人たちです。放任主義で、自分のやりたいようにすればいいという教育方針だったので、「高校くらいは行ったら?」と言うだけで、あとは好きにさせてくれていましたね。

そこで、高校卒業後は上京し、小さな編集プロダクションでアルバイトをすることに。そのうち、雑誌やカタログなどの原稿を書く仕事を回してもらえるようになったのですが、原稿料だけでは生活費が賄えないため、工場やコールセンター、警備会社などでのアルバイトを転々とする日々を過ごしていました。

両親が自営業者で、収入に波があるのは当たり前という環境で育ったこともあり、特に不安はなかったように思います。