
60歳を過ぎた木綿子は父の介護と引きこもりの娘の世話に日々追われている。不幸ではないが、いろんなものを諦めてきた人生だった。けれど、ひょんなことから知り合った2歳年下の男と出逢う。二人は互いに惹かれていくが……。遠田潤子さんが描く、静謐で過激な大人の恋愛小説。ぜひお楽しみください。
「なにもできない自分がふがいなくてたまらないんです。今の私はまともな人間じゃない。母に迷惑と心配ばかり掛ける役立たずなんです。部屋を出て働かなければ。働けないならせめて家事をしなければ。祖父の介護を手伝わなければ、って思うのに身体が動かないんです。甘えだってわかってます。惨めだ。生きていたって意味がない。私がいないほうが母だって楽になるだろう。いっそ死んでしまいたい……って」
「麻子ちゃん。もうやめるんだ」
強く言うと、麻子ちゃんがびくりと震えた。
「まともな人間じゃない、とか役立たずとか言うんじゃない。死にたいなんて絶対に言ってはいけない。麻子ちゃんになにかあったらお母さんはどうなる? 楽になる? バカか。楽になるわけなんてない。ただ苦しみが増えるだけだ」
「でも……」
