厚生労働省の「令和5年(2023)患者調査」によると、在宅医療を受けた推計外来患者数は年々増加傾向にあるそうです。そんな中で、2000人以上を看取った在宅緩和ケア医・萬田緑平先生は、「涙を乗り越えた患者さんは幸せな死を受け入れる強さを持てる」と語ります。そこで今回は萬田先生の著書『死ぬまで生きる: 穏やかな死に医療はいらない』(河出書房新社)より一部を抜粋し、お届けします。
目標は亡くなる前日まで元気でいること
診療所の外来診療の時間は1人1時間です。外来通院している患者さんとの話は、だいたいが「どうやって歩いて棺桶に入るか」です。痛みがある人は医療用麻薬の使い方を勉強することから始まります。
目的は歩くこと。僕は患者さんが歩けることに徹底的にこだわります。がん患者さんの終末期を長く診ていると、生きる力の根源は気力だと思わずにいられません。その生きる気力を引き出すのが歩けることなんです。
たとえば80歳を過ぎて身体も脳も老化が加速度的に進んできたり、慢性疾患の病気が進行したりして、徐々に歩けなくなって寝たきりになる。こうなるまでに「しょうがないことだ」と思える数年間の時間があります。でもがん患者さんの場合、意識がしっかりしていて歩けなくなるという状況があっという間にくるんです。しょうがないと受け入れるだけの時間もありません。
歩けなくなると、今日できていることのほとんどができなくなります。トイレに行けない。おむつになる。この現実が生きるつらさになってしまうのです。