(写真提供:Photo AC)
環境省によると、2025年度のツキノワグマの出没件数は全国で5万件を超え、過去最多を記録しました。2026年も、クマが人間を襲う事件がテレビや新聞をにぎわせる中、10年以上ヒグマとツキノワグマを追い求める動物カメラマンの二神慎之介さんは「私たちは人の生活圏に押し寄せるクマと向き合うために、よりクマという動物を理解する必要がある」と語ります。そこで今回は二神さんの著書『日本のクマを追う 激動の自然環境を生きる、ヒグマとツキノワグマ』より一部を抜粋し、「現代のリアルなクマ事情」をお届けします。

クマが人を襲う理由

日本国内における人身事故の件数は、実はヒグマよりツキノワグマのほうが圧倒的に多い。

なぜ、ツキノワグマのほうが人身事故に至ることが多いのだろうか。

まずは人身事故の原因について考えてみたい。「クマは人を見たら襲ってくるんでしょ」「クマは飛びかかってくる」。そんなことを言われた経験が何度かある。これは捕食目的を含むいわゆる能動的な攻撃を指すのだと思うが、実際にはそういったケースはほとんどなく、あったとしても非常にまれだ。

また「冬眠明けはお腹がすいているから危ない」という話も耳にするが、私はそういう例を目の当たりにした経験はないし、真夏に空腹のせいか動きが鈍いクマを見たことがあるが、人間を目の前にしても襲うようなそぶりは見せなかった。極度の空腹が人を襲うトリガーになる可能性も考えにくいのだ。クマの人身事故のきっかけはそのほとんどがとっさの防御行動か、母グマの子グマを守る行動なのではないだろうか。

とっさの防御行動。逃げる間がないので攻撃によって自身の身を守ろうとする。私の考えでは、クマが人を襲う最も多い原因がこれだ。子連れの母グマによる子グマを守る行動も、さし迫ったタイミングでの発生ならばとっさの防御行動に含まれると言える。そしてこれを引き出すのは人間との突然の遭遇である。

ようするに、びっくりさせることがクマの攻撃行動を引き出すわけだ。逆に考えれば、驚かせないことがまず人身事故を防ぐ最大の対策となる。もちろんクマに遭わないことが最善だが、遭遇の可能性がある場合には鉢合わせしないようにすることが大切だ。クマ鈴やラジオをつけて山を歩くのは、どこかにいるかもしれないクマに向けて自分の存在を常に知らせ続ける、びっくりさせないための方策と言える。