「行」という漢字には、コウ、ギョウ、アンと3種類の読み方があります。実は、漢字を「音読み」と「訓読み」に分けているのは日本だけなのだそうです。なぜ日本語の読みは、こんなにも複雑なのでしょうか?そこで今回は、音韻史の専門家である山形大学人文社会科学部・中澤信幸教授の著書『漢字と音読みの謎を解く-呉音・漢音・唐音の奥深い世界』より一部を抜粋し、「ややこしくて面白い、漢字と音読みの世界」をご紹介します。
はじめに
漢字には音読みと訓読みがある。「行」なら音読みはコウ、ギョウ、アン、訓読みは「い(く)」「おこな(う)」、「明」なら音読みはメイ、ミョウ、ミン、訓読みは「あか(るい)」「あき(らか)」といったように。
そして多くの人は、音読みは中国語起源、訓読みは古来の日本語起源、ということを知っている。これも漢字がもともとは中国語の文字であり、日本語がそれを借用したという経緯による。
実は、漢字を音読みと訓読みに分けているのは日本だけである。漢字の本場である中国、また台湾では、このような分類はない。かつて漢字を使っていた朝鮮・韓国、ベトナムでも同様であった。これらの国では日本と同じように漢字を借用し、また「漢文の訓読」も行われたのであるが、結果として「漢字の訓読み」が定着したのは日本だけというのは興味深い。
それだけでも日本の漢字の読みは複雑なのであるが、そのうえ、音読みだけでも複数の読みがある。先にも挙げたが、「行」ならコウ、ギョウ、アン、「明」ならメイ、ミョウ、ミンといったように。これも日本だけの話であり、中国、台湾、朝鮮・韓国、そしてベトナムでは、原則として一字は一音である。なぜ日本の漢字だけこんなにも複雑になってしまったのか。