自粛生活の中で、運動不足や筋力の低下を感じた人も多いと思いますが、筋力が衰えると脳や体にさまざまな影響を及ぼします。ただし筋肉は70歳、80歳になっても増やせることをご存じでしょうか? そこで筋肉の効果的な鍛え方を中高年の筋力トレーニングや健康政策などを研究する筑波大学の久野譜也先生にうかがいました(構成=本誌編集部 イラスト=若林夏)
何歳からでも鍛えられるアンチエイジング器官
「以前に比べて疲れやすくなった」「歩幅が狭くなり、歩くスピードが遅くなった」「少しの段差でもつまずく」。これらはすべて、筋肉が減ってきたサインです。
私たちの体の筋肉は、何も対策をしないでいると20代をピークに減り始め、40代からは毎年1%ずつ減少します。わずかな数字に思えますが、10年で10%減り続け、70代には20代の頃の半分ほどの量しか残らないことになるのです。
筋肉が減少すると、基礎代謝が低下し肥満やメタボのリスクが高まります。体力や運動能力が衰えるため歩行も困難になり、やがては寝たきりや要介護の状態に。
コロナ下のステイホーム生活で、心身が衰える「フレイル」状態の高齢者が増えました。さらに、認知機能の低下も進んでいることがさまざまな調査から明らかになっています。
こうした病気やトラブルを未然に防ぐためにも、「筋トレ」は不可欠なのです。「70代、80代になったらもう手遅れ」と考える人もいるかもしれませんが、筋肉は何歳になっても鍛えられ、若返らせることができる唯一の「アンチエイジング器官」。その証拠に、私が監修した運動プログラムを実践した方々は、みなさん体力年齢が10から15歳ほど若返り、足腰の痛みや頭痛などの不調も改善しています。
筋トレの効果は体力向上や痛みの改善にとどまりません。筋肉から分泌されるホルモンを総称して「マイオカイン」と呼び、30種以上が発見されていますが、そのうちいくつかは、糖尿病・高血圧・動脈硬化を抑制するはたらきのほか、がんや認知症の予防につながる効果があることが近年の研究で明らかになりました。マイオカインを効率よく分泌させるためにも、筋トレを行わない手はないのです。