築50年超えの団地。壁紙は剥がれ、カビのしみもあちこちに(写真:『54歳おひとりさま。 古い団地で見つけた私らしい暮らし』より)
2021年度の生命保険文化センターの調査によると、世帯主が65歳以降に必要と考える「夫婦の老後生活資金」は、年金を除いて月額約16万円だそうです。まもなく年金を受け取る方も、これからの方も、老後に向けてお金の不安は募りますよね。そんな老後を見据え始める50代直前、母の介護のために新築マンションから築50年の団地に引っ越したのがきんのさん。そのきんのさんいわく「母のSOSに応えられるのは私だけ」だそうで――。

都会の快適なマンション暮らしと、老いてゆく母。選んだのは……

私は幼いころ両親が離婚し、父と祖母に育てられました。母と生活した時間は短く、この境遇を恨んだこともあります。ほかの兄弟たちも少なからず同じ気持ちだったでしょう。

就職で上京した際に同じく東京にいた母と再会し、交流が増えました。母はお茶目で無邪気な人。色々あっても憎めないのはやはり母親だから。

ケンカもするけど、すぐ仲直りできる不思議な関係です。母のSOSに応えられるのは私だけ、それだけははっきりしていました。

確かに、最近の母の異変には気づいていました。足元はおぼつかないし、同じ話を何度もしたり、同じものを大量に買ってきたりすることも。母の老後を見るのは私しかいない、でも……。

母を選べば、思い描いていた私の夢は捨てることになります。着物で美術館、快適でおしゃれな住まい、気ままなシングルライフ、全て諦めなくてはならなくなる。しかも団地は職場から往復3時間の距離にありました。