同居家族がいても「おひとり死」はありうる

私には上野千鶴子*1さんという勝手に目標としている16歳年下の論客がいます。仲はいいのですよ。ただある意味、私のほうが上野さんに近寄った、ともいえるかもしれませんが。

上野さんは「おひとりさまの老後は誰にでもやってくる」と言っていますが、そのとおりだと思います。

樋口先生「かかりつけ医といっても、往診しないのであれば本当にかかりつけ医といえるのかどうか」(2021年9月撮影。写真:本社写真部)

近年は交通事故で亡くなるおひとりさまよりも、お風呂で亡くなるおひとりさまのほうが多い。それよりもさらに、自宅の周辺で転倒して亡くなるおひとりさまが多い。

つまり、「昼間ひとり死」。上野さんがわざわざ「おひとり死」と旗を振らなくても、どんどん後続部隊は押し寄せているのが現状です。

私だって以前に転倒したとき、打ちどころが悪く長く気絶してしまっていたら、「昼間ひとり死」ということになったかもしれないのですから。

私は娘と同居していますから、国勢調査的にはひとり暮らし高齢者ではありません。

でも日中、娘は仕事で家にいないので、実質的にはひとり暮らし高齢者と同じ。こういう「隠れひとり暮らし高齢者」がごまんといるのが現代社会です。

昼間ひとりになるのであれば、家族がいるからといって「おひとり死」にならないわけではないということを心得ておく必要があります。

*1 上野千鶴子:社会学者。1948年富山県生まれ。京都大学大学院修了。東京大学名誉教授。認定NPO法人「ウィメンズアクションネットワーク」理事長。女性学・ジェンダー研究のパイオニア。著書に『おひとりさまの老後』『家父長制と資本制』など。