「めっちゃ普通の人間」

小林が民放のバラエティ番組でカラオケを歌っているのを見たことがある。どういう経緯でそうなったのか、NIHの狭い研究室でマイクを握らされていた。制作側の演出なのだろうが、まんざらでもなさそうな表情だった。こんなことを言っていたこともある。「人前で何かを話す時は、まあ、場所にもよりますけど、関西人らしく一回は笑いをとりたい」

「研究者と言っても、普段はただの関西のおっちゃんですからね」

笑って言うのは母の孝子だ。

「実家に帰ってくると、阪神タイガースとX JAPANと乃木坂ナントカの誰それが好きな、私よりミーハーなおっちゃんです」

そういう孝子も品がありながらも関西人らしいサービス精神と陽気さに溢れている。取材時はもうすぐ米寿を迎えるという年齢だったが溌剌としていて、ひとり息子の趣味を嬉々として話す声には茶目っ気と凛々しさが同居していた。

「でも、仕事に関しては本当に真面目。我が子ながら、自分の信じた道をまっすぐに歩んできて、その道を踏み外さなかったのは偉いと思います」

小林自身もこう言う。

「僕は、求めるものにはこだわりはありますけど、めっちゃ普通の人間だから、結局は研究が楽しいから続けてこられたのかなあ。どうだろう。でも、医療開発の現場は、楽しい、おもしろいだけではやっていけない世界でもある。もうだめだと諦めそうになったこともありますよ。でも、そんなふうに心が折れそうになった時に支えになっていたのは、やっぱり、がんばれば人の役に立つ、という思いだけですよね」