貧困家庭に生まれ、いじめや不登校を経験しながらも奨学金で高校、大学に進学、上京して書くという仕事についたヒオカさん。現在もアルバイトを続けながら、「無いものにされる痛みに想像力を」をモットーにライターとして活動をしている。ヒオカさんの父は定職に就くことも、人と関係を築くこともできなかったそうで、苦しんでいる姿を見るたび、胸が痛かったという。第55回は「人のやさしさ」です。
正面から歩いて来た人にぶつかられた
ある日、夜道を歩いていたら、急に身体にガンっと物凄い衝撃が走った。右胸に激痛が走り、うずくまる。あまりに一瞬の出来事で何が起きたのか分からなかったが、前から歩いて来た人にぶつかられたのだ。
あれ、たまたまぶつかっただけ?でも、決して狭い道ではなく、人通りも少ない。しかも、物凄い衝撃だったので、ぶつかった相手にだって相当な衝撃があったはずだ。それなのに、立ち止まらずに去って行った。ということは、まさかわざとってこと……?
よく考えれば、たまたまぶつかっただけとはとても思えなかった。歩いていただけでたまたまぶつかっただけなら、例えば肩がボーンと当たるというように、少し広い範囲が接触するはずだ。
しかし、私の場合、鎖骨の下あたりの、かなり局所的に、超ピンポイントで、しかも相当な力で突かれた。こんな言い方もどうかと思うが、それは一瞬で相手に最大のダメージを与えるプロの技だった。きっと常習犯なのだろう。