「何よりも、27歳のときに、仕事がガクンと減ったことがとても苦しかったから、ここでペースダウンしたら、またあのときの自分に戻ってしまう。それだけは絶対に嫌だった。」

「これはまずい」というのはわかっていましたが、子育てに追われていたので、自分のために病院に行くヒマなんてありません。「仕事には絶対穴を開けられない」と、ありとあらゆる市販薬を飲んでなんとかしのいでいたものの、主演が決まっていた舞台の稽古場で、いきなり倒れてしまった。そのときは、自分でも「もうダメだ」って観念しました。

突発的末梢性めまい症。ようやく病院に行ったとき、そう診断されました。このめまいには、それから7年近く悩まされ、その間に更年期の症状も重なりました。その間は、病院で処方された薬をずっと飲み続け、有酸素運動がめまいを和らげると聞いたので、オフの日は8kmのスロージョギングとウォーキングも欠かさずに。

それでも仕事を休もうとは思いませんでした。不思議なことに、仕事モードに入ると、めまいが気にならなくなるんです。何よりも、27歳のときに、仕事がガクンと減ったことがとても苦しかったから、ここでペースダウンしたら、またあのときの自分に戻ってしまう。それだけは絶対に嫌だった。

もうひとつ、長男は前の夫との間の子どもだったので、長男の生活費や学費などで、夫に迷惑をかけたくなかったんですよ。

もちろん、夫はそんなことまったく気にするような人ではなく、3人の息子たちを分け隔てなく愛してくれています。でも、その優しさに甘えてしまうのは自分が許せない。せめて、長男の学費くらいは私の手で稼ぎたい。そんな理由が重なって、いくら体調が悪くても、私には仕事をやめるという選択肢はなかったのです。