これからは、人間の心を丁寧に表現できる女優に

40代の大半を体調不良に悩まされ、ようやく落ち着いたのが今から1、2年前のこと。人より少し早めの更年期だったのかもしれません。心身ともに辛かったとき、苦しい思いはすべて夫に聞いてもらっていました。夫は「僕は黒沢あすかのすべてを受け入れるよ」と言ってくれた、とても器の大きい人なんです。

とはいえ、「もうダメだ」と限界を感じるまでは、いっさい弱音は吐きません。私の仕事を理解してくれているのは本当にありがたいけれど、踏み込まれすぎるのも得意じゃない。夫に対してもあまり弱っているところを見せたくないというのが本音です。

昨年、50歳の誕生日を迎えて、一番下の息子も中学2年生になり、仕事に集中できる時間も増えました。これからは、人間の内面を表現できる女優になっていきたいですね。セリフがなくても、背中や顔で、匂い立つようにその役の心情を表現できるような。そういう意味では、今回の映画『親密な他人』は、私にとって新たな一歩となった作品と言えるかもしれません。

女優として成功したいという思いから、若いときにエキセントリックな役の枠の中に飛び込んでしまった。そのおかげで才気あふれる監督さんたちと出会い、数々の貴重な経験もさせていただくことができました。でも本来ならば、10代、20代のときに女優として学んでおかねばならなかった何かが私には欠けている。

50代からは、その部分を埋めていくような仕事をしていきたいですね。もっと心の深いところで感情を表現できるような女優に、これからなっていけたらと思っています。


『親密な他人』(c) 2021 シグロ/Omphalos  Pictures 配給:シグロ

●主演映画『親密な他人』は2022年3月5日(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開 (c) 2021 シグロ/Omphalos  Pictures 配給:シグロ
●『恋い焦れ歌え』(熊坂出監督)が5月27日(金)より全国順次公開予定