最初にして最後の、父からの手紙
実はその大事な手紙の中に、1通だけ息子たちからのものでないものが混じっている。
私が結婚するときに、父からもらった手紙だ。
結婚式にテレビの中継が入り、最後に司会の徳光和夫さんから読み上げられた父の手紙。正直なところ私はなぜかそのとき、あの父が本当に私に宛てて書いたものではないと思いこんでしまった。
花嫁の父として話をすることを断固拒否していた父が、テレビのために手紙など書くはずがないと思ったのだ。
披露宴が終わって部屋に落ち着き、地球が吹っ飛ぶくらいの深〜いため息をついたあと、テーブルの上に1通の私宛ての手紙を見つけた。
中を見ると小さい時から見慣れた、大人にしてはちょっと崩れ気味の丸っこい字…最初にして最後にもらった、父の書いた手紙に間違いなかった。
あらためて手紙を読み返した時、目が開かないくらいドドドと涙が溢れ出てきて、落ち着いて読むのに1日くらい時間がかかったのを覚えている。
父が亡くなってから8年が経った。
私にはまだあの父の手紙を読み返す勇気が、今もない。もう25年も経ったけれど、父の望んだような人生を私が歩んできたかどうか。答え合わせのようになりそうで怖いのだ。
そんな内容の手紙でもなかったのだけれど。
いつでも読み返してはその空気と思いと、書いた人の息遣いを感じることのできる手紙。
一周廻って、今また誰かに手紙を書くブームが若い世代に訪れたら…
そしたらきっと「。」は書きますよね?