結局彼が声をかけていたのは

私の夫はイタリア人だが、ブラジルのジャングルでもエジプトの砂漠でも長袖のシャツに折り目の入ったズボン姿で行動する。

人によって旅に対する姿勢には個人差があるし、動き回らなければならない旅先では、すぐに洗えて荷物の邪魔にならないTシャツは楽だ。

街で見かけたTシャツ短パン姿の外国人(撮影=ヤマザキマリ)

外国人に限らず、今は日本の若者も旅先ではTシャツに短パン姿が当たり前になってきている。しかし、東京の街中を歩いているときに、ふとリゾート地にいるような姿の観光客が視界に入ると、美術学校の先生の愚痴が頭を過(よぎ)る。

ちなみにこの先生が、私にTシャツ短パンへの不満をぶちまけたあと、広場で声をかけていたアメリカ人の女性観光客のいでたちは、タンクトップに短パンだった。


歩きながら考える』(著:ヤマザキマリ/中公新書ラクレ)

パンデミック下、日本に長期滞在することになった「旅する漫画家」ヤマザキマリ。思いがけなく移動の自由を奪われた日々の中で思索を重ね、様々な気づきや発見があった。「日本らしさ」とは何か? 倫理の異なる集団同士の争いを回避するためには? そして私たちは、この先行き不透明な世界をどう生きていけば良いのか? 自分の頭で考えるための知恵とユーモアがつまった1冊。たちどまったままではいられない。新たな歩みを始めよう!