「亡くなる1週間ほど前、病室で母から思いっきり抱き締められました。かなり衰弱していたのに、信じられない強さで――」

亡くなる前の病室で

母は人一倍、健康管理に気を使っていましたが、2009年、73歳のときに膵炎(すいえん)で入院しました。

すぐに完治したのでそれほど心配していなかったものの、14年に肺腺がんを発症。しかし、手術の時と最後の入院以外で仕事を休むことはありませんでした。闘病しつつ、現場では気丈に働いていたのです。

闘病中は、スタッフの方々や親戚に本当に助けられて。その時期、私は私で体調を崩して、精神的に不安定でした。そばにいること以外、たいしたことができなかった。母の闘病中でさえ私は甘える側だったのです。

それだけが悔やまれますが、わだかまりのない関係で最後の10年をそばで過ごせたのは、私にとってはもちろんかけがえのない時間でしたし、母にとってもそうであったらと、心から祈ります。

亡くなる1週間ほど前、病室で母から思いっきり抱き締められました。かなり衰弱していたのに、信じられない強さで――。私は涙がこらえられず、母の肩で必死に声を殺していました。

亡くなって間もなく、黒柳徹子さんから声をかけていただき、ドラマ『トットちゃん!』で野際陽子役を演じたんです。私は見た目も含めて野際陽子に近づこうとしていたので、「似ているね」と言われるのが役者として嬉しかった。

実は母の生前は、似ていると言われるのに複雑な思いがありました。母とは関係なく、私は私として扱ってほしいという気持ちがあったから。