――弘道さんを突然襲った脊髄梗塞とは、脊髄にある血管が何らかの原因で詰まり、神経が機能しなくなる病。背骨の中にあり脳に繋がる神経の束が脊髄で、血管が詰まった位置によって麻痺の範囲も程度も違うため症状は十人十色だ。弘道さんの症状からすると、10番目の胸髄近辺で血管が詰まったと考えられる。

久美子 あの日(24年6月2日)の弘道さんは朝からリビングで転んだり、少し様子が変だったのよ。仕事で一緒に鳥取へ行く日で、羽田空港に着いたぐらいからひどく腰を痛がって。何とか飛行機には乗ったけど、機内で腰から下が完全に動かなくなってしまったのよね。

弘道 足の感覚がまったくなくなり、腰が強烈に痛くなって、まるで鉄板で下半身を締め上げられてるようだった。到着後、機内の通路には車椅子が入らず、腕の力だけで一番前の出口まで這っていったことは覚えてるよ。

久美子 そして、そのまま鳥取の病院に緊急搬送。その日は日曜日だったけれど、当直医が整形外科と脳神経外科の先生だったのが奇跡的な幸運だったよね。お二人の連携で「脊髄梗塞の疑い」と診断され、そのまま緊急入院できた。あのとき原因不明ということで帰らされていたら、今みたいに歩けるようにはなっていなかったかもしれない。

弘道 激痛の中、枕元のスマホで「脊髄梗塞」を調べたよ。「症例数は全脳卒中の1%」「治療法は確立されていない」「完治は困難」と出てきて愕然とした。下半身はまったく動かない。尿意も便意もないから尿道には尿管を入れられて、おむつの状態。

ずっとこのままかと思ったら、窓から飛び降りてしまいたかった。でも窓までの数歩も歩けなくて。