卒業から50年後に届いた卒業証書

母が92歳で亡くなった後、母が使っていた箪笥の中から、母の書いたメモとショールを見つけた。メモには、『3月10日を生きぬいた観音様 ショール ついだのは母 仏だんにある』とあった。ショールは、母の母親(私の祖母)が焼け焦げた部分を切り、残った布を縫いつけ、小さくなったものだった。5cmの観音像は仏壇に置いてある。

写真提供:しろぼしマーサさん

母の箪笥には、卒業から50年後に自宅に届いた中村高等女学校の卒業証書も筒に入ってあった。東京大空襲により同校の校舎は全焼したため、昭和20年4月10日に明治小学校の仮校舎で卒業式が行われ、卒業証書は紙不足のため、わら半紙だった。

平成6年の同校の85周年記念事業として、昭和20年3月25日の日付と当時の中村三郎校長の名前がある美濃紙の正式な卒業証書が、卒業生たちに渡されたのである。

難病で寝たきりの夫に、母は卒業証書を満足そうに見せていた。 


 

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