山歩きのための杖で先制攻撃を仕掛けた
常日頃から覚悟はしていたので、何度か脳内でシミュレーションをし、気持ちの準備だけはしていた。動画の中で手にした棒切れは山歩きのための杖だったが、武器になるものはそれしかない。それを力の限り振り回して、相手に叩きつけた。
「いざ襲われるってなったら、人間はクマに勝てません。向こうが本気で怒っていたら、たとえ20kg弱のクマでもスピードが速すぎて、勝てるはずがないんです。イヌの20kgとはわけが違う。イヌはかじるだけだけれど、クマには爪があって、スピードがあって、何しろパワーが桁違い。だから、人間にできるのはハッタリしかない」
佐藤さんはそばに生えていた太いミズナラの木を盾がわりにして、その背後へ回り込んだ。だが、クマも回り込んでくる。
受け身になってはいけない。ここはアドレナリンを高めて気持ちで勝つしかないと考え、先制攻撃を仕掛けた。頼りになるのは一本の棒っ切れだけ。覚悟を決めて叩き続けた。