たくさんの方に見送って頂き、そして何よりギャラリーに飾った自慢のコレクションをお目にかけられ、一番夫らしい、きっと満足してくれる葬儀になったと思っています。

そしてそこからがまた一騒動でした。あれこれと話し合う中で「お香典返しにはお父さんのコレクションの古裂を額装したらどうだろう」と容子が思いつき、私もすっかり乗り気になったのです。(※「古裂(こぎれ)」骨董価値のある古い布)

そうと決まれば二人してハサミを握り、長さ3メートル以上ほどの無傷の裂を一晩で100枚以上のピースに切り刻んだのは、今から思えば尋常ではない精神状態でした。

択んだのは19世紀半ばのフランス産ジャカード織インドカシミヤ写しの大判ショールで、パリの蚤(のみ)の市で夫が手に入れた数枚のカシミヤ写しの中でも一番の気に入りの、貴重な一枚でした。

切るところによって渦巻き模様が出ていたり、小花模様が出ていたり。どこを裁っても美しく見応えがありました。夫の人生そのものの裂であり、本望だったのではないかと思います。

こうして次々と――自ら作り出したところもありますが――難題を乗り越え悲しむ暇もなく過ごしたことが、私の心のためには良かったのではないかと思います。背後には店の移転が迫り東急の二つの支店も地方催事もこれからは私が店主として切り盛りしなければならない。立ち止まっている訳にはいきませんでした。


 

九十一歳、銀座きもの語り』(村田あき子・西端真矢:著/KADOKAWA)