次女の様子
それから、またしばらくして、次女の様子が夜だけおかしいことに気がついた。先に気がついたのは妻で、ある晩、寝室で相談をされたのだ。
「最近、あの子、夜更かししてるのよ。明け方まで起きていることもあるみたい」
妻は心配そうに眉をひそめる。
「それに、自分の部屋に鍵まで掛けて何かをしているみたい。トイレに起きたとき、廊下を通ると、あの子の部屋、そう、ドアと床の隙間から明かりが漏れてるの」
心配になった彼は、翌日、何か変なことに没頭しているのではないかと、次女に探りを入れてみた。
「最近、夜遅くまで起きてるんだって?」
「うーん、宿題があるから」
「宿題だけで? テスト勉強とか、部活の準備とか?」
「そんなところかな」
「まさか、スマホでゲームとか動画見てるわけじゃないよね?」
「違うよ」
「じゃあ、友達とのやり取り? メールとか、その交換日記とか?」
「それは関係ないよ」
次女は曖昧に微笑みながら、うまくかわしてしまった。どこか上の空のような表情で、視線も彼の顔を見ているようで見ていないような、不思議な感じだった。
長女に聞いても、知らないという。
「私も気になってたんだけど、最近妹と話す機会も少ないし、よく分からない」
彼女は困ったような顔をして首を振った。
「それに、私と妹の部屋って離れてるから、夜何してるかまでは……」
それから、またしばらくして、寝ようと就寝前の歯磨きをしていると、妻が黙って手招きをしてきた。洗面台で歯ブラシを口に入れていた彼は、振り返った。
「どうし……」
たの? と訊こうとして、シーッと口の前で人差し指を立てる妻。要は静かにしろ、ということだ。妻の表情は緊張していて、眉間に深い皺が寄っていた。
一体どうしたのかと妻に近寄ると、そのまま二階を指して、それから階段へ歩き出した。どうやら付いて来いということらしい。妻の足音は意識的に抑えられていて、階段を上るときもほとんど音を立てなかった。
二階に上がると、次女の部屋のドアが少しだけ開いている。いつもなら完全に閉まっているドアが、手のひら一つ分ほどの隙間を作っていた。恐らく、閉め忘れか、鍵の掛け忘れだろう。
夫婦で次女の部屋を覗くと、次女が勉強机の前に座って、うつむいている。椅子に座ったまま、まるで糸の切れた人形のように、ぐったりとした姿勢だった。
ぼんやりとした表情で、半分寝ているようだった。横顔が見えるだけだったが、瞬きもせずに微動だにしない様子が、どこか人形のように見えた。
そして、次女のうつむいた顔の先には、いつも大切そうに持っている交換日記が開かれた状態で置かれている。ページは真っ白で、何も書かれていないように見受けられる。
中館さんも妻も、この光景に息を呑んだ。さすがにまともじゃない――声をかけるべきか逡巡したが、結局、そのときはどうすることもできずに夫婦して寝室に戻った。次女は思春期でもあるので、刺激すると反抗するかもしれない。そっとしておくのも一つの手だ。
