日記の相手
翌日、翌々日も普段と変わらぬ次女であった。朝はいつも通り起きて、普通に朝食を食べ、元気に学校へ向かった。帰宅してからも、特に変わった様子はなかった。
しかし、彼は、あることに気がついた。
それは、次女が登校するとき、家のポストに交換日記を入れてから学校に向かう、ということだった。
最初は、普通は直接渡すものじゃないのかと思ったが、たまたまその日だけの特別な事情があるのかもしれないと考えた。しかし、何日か続けて観察していると、確実にそのパターンを繰り返していることが分かった。次女は玄関を出ると、まるで儀式のように丁寧な手つきで、門柱に取り付けられた緑色のポストに、あの青い表紙の交換日記を入れる。そして振り返ることなく、いつもと変わらぬ足取りで学校へ向かっていくのだった。
不思議に思って次女に尋ねた。
「交換日記って、相手の子に直接渡さないのか?」
次女は少し考えるような仕草をしてから答えた。
「うん、その子とは会ったことがないの」
「会ったことがない?」
「ある日、ポストに交換日記が入ってたの。それから、やり取りが始まったんだよ」
彼は眉をひそめた。
「それで、その子の名前は?」
「書いてなかったから、分からない」
次女の説明によると、交換日記は、ポストに入れておくと相手が取りに来ていつの間にかなくなっている。またしばらく経つとポストに交換日記が入っているので、受け取るのだ、ということだった。
不思議な話だと中館さんは首を傾げた。そもそも、会ったこともない相手なんて、危険な人物である可能性が高い。女性を装っているが、実は次女のストーカーかもしれない。最近のニュースで見るような事件の前兆でなければいいが、と彼は不安になった。
そこで、交換日記の相手がどんな奴なのかつきとめてやろうと、家の前にポストを映す防犯カメラを設置した。商売柄、防犯カメラの設置には慣れている。角度を調整し、ポストが確実に映るように設置した。
数日間、録画を続けた。結果、怪しい人物はポストの前には現れなかった。それどころか、家族と郵便局員以外がポストに触れることはなかったのである。
録画を何度も見返したが、次女が朝にポストに交換日記を入れ、夕方にポストから交換日記を取り出す以外、誰も近づいていなかった。それなのに、次女が取り出す交換日記は、確かに朝に入れたものと同じ青い表紙のノートだった。
その間も、次女の部屋が開いていることが度々あったらしく、その都度、妻や長女が中館さんに報告してきた。
「また、あの子がおかしいのよ。自分の部屋の机の前で交換日記を見ながらボーッとしてるの」
「今度は1時間以上、同じ姿勢でじっとしてた」
もう看過できないと判断した中館さんは、ある日、次女が学校でいない時間を見計らって、罪悪感に胸を締め付けられながらも次女の部屋へ入った。