報せ

それから、またしばらくして、妻の習い事の先生が亡くなったという報せが入った。妻が三味線を習っている老婆の先生で、80歳を過ぎていたが、まだまだ元気だと思っていたので、突然の訃報に驚いた。

彼にそのつもりはなかったのだが、妻から一緒に葬式と挨拶に来てくれとせがまれて、礼儀だからということで参列することにした。

(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)

その時期は、それほど仕事が忙しくなかったので、彼は妻と一緒に通夜と葬儀に出ることにした。

通夜の席で、亡くなった先生の家族や親族に挨拶をしていく中、先生の形見分けをするとのことで、夫婦ともに、亡くなった先生の部屋へ通された。

そこは六畳ほどの和室で、先生が寝たきりで使っていたベッドがまだ片付けられていなかった。白いシーツが丁寧に整えられ、枕の跡が微かに残っている。部屋の隅には本棚や仏壇と位牌、箪笥などが置かれていた。線香の香りが部屋全体に漂っている。

その中で、棚の上に飾られた鮮やかな千代紙細工が目を引いた。鶴や花、小さな人形など、色とりどりの作品が丁寧に並べられている。

彼がそれを見ていると、先生の家族が近づいてきて説明してくれた。

「それは生前、故人が趣味で作っていた物です。手先が器用でしてね、最後まで作り続けていました」

部屋に入ると、お弟子さんたちというか、生徒たちが、先生の家族からいろいろと貰っていた。形見分けの品々が、小さなテーブルの上に並べられている。

そこで、ふと彼は部屋の本棚にあった一冊の本を目にした。

それは、次女がいつも大切そうに持っていた交換日記帳と、全く同じものだった。同じ青い表紙、同じ大きさ、同じ擦れ方。間違いなく、同じものだった。