日記の中身
勉強机の上に、閉じて鍵が掛けられている交換日記帳があった。
部屋の中は静まり返っていて、時計の秒針の音だけが規則正しく響いている。
すでに部屋に踏み込んだ時点で許されない行為だったが、ここまで来て引き返すわけにはいかなかった。職業柄、この程度の簡単な作りの鍵は楽に開けられた。金属製の小さな鍵が、カチリという音とともに回った。恐る恐るゆっくりと表紙から開き、順に中を確認していく。
すると、交換日記には何も書かれていなかった。全て白紙だったのである。1ページ目も、2ページ目も、最後のページまで、真っ白な紙が続いているだけだった。
これはさすがに一人では抱えきれない、と自覚せざるを得なかった。
そのことを妻に話すと、次女の部屋に忍び込んだことを咎められはしたが、妻も彼と同じく動揺した。長女にも妻から相談をしたのだが、次女をどうしていくかなかなか決まらなかった。病院で診てもらうべきなのか、それとも様子をうかがうべきなのか。
だが、心配をよそに、いつしか交換日記は終わったようで、次女が自室でぼんやりすることも、交換日記を大事そうに持って歩くのも、ピタリと止まったのだ。
あの青い表紙のノートを見かけることもなくなった。次女の表情も、いつもの明るさを取り戻していた。
家族三人は、漸く安堵の溜め息をついた。