大切なのは過去ではなく…

しかしその一方で、いつまでも「あの人のせいで、自分の人生は不幸だ」と思い続けていても、人生がよい方向に変わることはけっしてありません。「自分は、まだあの人に怒りを感じているのだ」と自分の感情を認めるのはいいのですが、恨みだけで人生を消耗してしまうのは、あまりにももったいないことです。

そして、他人というのはそう簡単には変わらないもの。他人に謝罪や改心を求めても、まずこちらの思うとおりにはならないでしょう。

だからこそ、過去ではなく「今どうするか」に集中することが大事です。

患者さんにも、辛いことを思い返しそうになったら、何でもいいから自分の気の紛れることをしてほしいとアドバイスしています。

たとえば、会うとホッとする友だちに連絡してみる。ケーキ屋さんで美味しそうなスイーツを買って帰る。お腹いっぱいラーメンを食べる。犬や猫と遊ぶ。近所を軽くジョギングして汗をかく──内容は人それぞれで結構です。

アダルト動画で気持ちが落ち着くというならそれでもいいし、韓流アイドルへの「推し活」でもいい。法律に触れなければ、何だって構いません。

そうやって、少しずつでいいから、怒りや恨みから解放される時間を増やしていくことで、痛みが徐々に引いていくように、心のなかも少しずつ軽くなっていくはずです。

※本稿は、『医師しか知らない 死の直前の後悔』(小学館)の一部を再編集したものです。

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