黒字が出にくい料金体系が職員の働き方に落とす影

加算(基本単位に加えて事業所の報酬が増える制度)を取るための書類作成も職員の時間を圧迫します。

処遇改善や特定処遇改善を満たすには研修計画・評価シートの作成が必須ですが、作った書類が給料に反映されるまでタイムラグがあります。「書類を増やしたぶん、結局はサービス残業で補っているのでは?」と、徒労感を覚える職員も少なくありません。

『未来をつくる介護』(著:森山穂貴/クロスメディア・パブリッシング)

こうした負荷が続くと、現場の会話は「また人が辞めたらどうしよう」「加算の手当が出るのはうれしいけれど、身体はきつい」という発言で埋め尽くされます。ケアの質を守ろうと真面目に取り組むほど、自分の生活が後回しになる矛盾がストレスとして蓄積し、バーンアウトを招くのです。さらに、これは現場目線だけではなく、経営においても現場スタッフのパワーバランスが強くなり、大きな意思決定がしづらい状況にもつながります。

さらに、薄利構造は“挑戦”の芽を摘むことにもつながります。

新しいレクリエーションやICT導入のアイデアが出ても、「それってコストを回収できるの?」という問いで議論が止まることがしばしばあります。結果として、現場は保守的なオペレーションに終始し、職員は成長や達成感を感じにくくなります。「別の業界でスキルアップした方が自分の未来を描けるのでは?」という転職動機が生まれるのは、この瞬間です。

要するに、黒字が出にくい料金体系は、単に法人の決算書を圧迫するだけではありません。シフト、備品更新、研修、休暇取得、イノベーション――あらゆる局面で職員の選択肢を狭め、「質を高めたい」という専門職としての動機と「コストを抑えたい」という経営の理屈を衝突させます。

その板挟みこそが、現場の疲弊を底流で支える最大の要因なのです。