頭が真っ白になった
富士丸が仕事机の下に横たわっていた。私が帰ったのに起きてこない。違和感を感じて顔を覗き込むと、その目はどこも見てなかった。胸に耳をあてても何も聞こえない。全身から力が抜けていた。声をかけてもいくら叩いても反応がない。何が起きたのか理解できなかった。夕方の散歩は普通だったのに。なんの前兆もなかった。この前受けた健康診断でも異常はなかったのに。明日は土地を契約する日なのに。
慌てふためいてかかりつけの獣医に電話したが、皆目見当がつかないとのことだった。心臓か脳、それしか考えられなかった。7歳半だった。頭が真っ白になった。
土地契約は、手付金を放棄して白紙に。家の企画も中止。こうして富士丸と山で暮らす夢は、ある日突然終わった。
※本稿は、『犬のために山へ移住する: 200万円の小屋からはじまる、不便でも幸せな暮らし』(草思社)の一部を再編集したものです。
『犬のために山へ移住する: 200万円の小屋からはじまる、不便でも幸せな暮らし』(著:穴澤賢/草思社)
物件探しから引っ越し、リフォームやDIY、かかる費用、田舎の人付き合い、老後の問題など、地方移住のリアルと、メリット・デメリットを犬たちとの山の暮らしの日常を通じてユーモラスに綴ったエッセイ。
愛犬とのしあわせな暮らしを実現したいと願うすべての人必読の一冊。




