(写真提供:Photo AC)
これまで10万人の脳を診断してきた脳神経外科医・奥村歩先生は、近年の診察を通して「30代~50代のビジネスパーソンの脳があまりにも疲れ切ってしまっている」ことを強く実感しているそうです。「しっかり休んだはずなのに疲れが残っている」「なぜか頭が働かず、仕事に集中できない」といったことがあれば、それは脳が疲れているのかもしれません。そこで今回は、奥村先生が脳疲労を解消するノウハウや知識をまとめた著書『10万人の脳を診てきた脳神経外科医が教える 脳を休めて整える習慣』から、一部を抜粋してお届けします。

脳を疲れさせる三つの「現代病」

なぜ現代の30~50代といった働き盛りの世代が、これほどまでに「脳疲労」に陥っているのかを考えてみましょう。

そこには、現代ならではの複数の要因が関係しています。

現代人を脳疲労に陥(おとしい)れる、主要な三つの要因は次の通りです。

疲れている理由(1) 深刻な「睡眠負債」

脳の疲れを取るための最大の武器は、なんと言っても「質のいい睡眠」です。

睡眠の目的は、日中の活動で疲弊した脳を休ませるための「脳のメンテナンス」にあります。にもかかわらず、私たち日本人の睡眠時間は、残念ながら世界的に見ても十分とは言えないのです。

かつて「勤勉」と評された国民性が影響しているのでしょうか。2021年のOECD(経済協力開発機構)の統計では、日本人の平均睡眠時間は7時間22分と、世界平均よりも1時間以上短くなっています。

さらに、厚生労働省が2023年に実施した「国民健康・栄養調査」でも、睡眠時間が6時間未満の人の割合は、男性の38.4%、女性の43.6%にも上り、特に40~50代の働き盛りの世代では、男女ともに4割を超えています。

<『10万人の脳を診てきた脳神経外科医が教える 脳を休めて整える習慣』より>

まさに、多くのビジネスパーソンが「睡眠負債」を抱えている状態なのです。

ちなみに、この睡眠負債とは、いわば「睡眠の巨額な借金」のこと。

「昨日は徹夜した」「昨晩は全然眠れなかった」といった“自覚のある睡眠不足”とは異なります。

睡眠不足であれば、翌日にしっかり寝れば回復できることが多いでしょう。

それに対して睡眠負債は、自覚のないまま毎日1~2時間程度の睡眠不足がジワジワと積み重なり、心身の健康を蝕んでいくものです。単なる睡眠不足より、恐ろしいものなのです。

メジャーリーガーの大谷翔平選手は「過酷なトレーニングを日々こなす中でも、いいパフォーマンスをするために最も大切な生活習慣は?」という問いに、常に「熟睡習慣」と答えています。人一倍肉体を酷使していても、十分な睡眠によって心身の疲労をリセットしているのです。

しかし、そんな彼でさえ、担当通訳の不祥事で強いストレスにさらされた際は、ごく短期間ながらもスランプに陥ったことがありました。後に本人が「あのときは眠れなかった」と告白していることからも、超一流アスリートのパフォーマンスでさえ、睡眠不足とそれに伴う脳疲労には抗えないことがわかります。

今日のビジネスパーソンも、脳疲労を防いで仕事の質を維持するために、睡眠の重要性を改めて認識する必要があるのです。