かつて日本には、城が2万5000~3万ほどもあったと言われています。「近くの城に関する資料を調べてみると、怪談や思わぬ物語の発見があるかも知れません」と語るのは、『生き屏風』で日本ホラー小説大賞短編賞を受賞し、怪談イベントにも多数出演する小説家・田辺青蛙さんです。そこで今回は、田辺さんが日本全国の名城にまつわる怪談の数々を集めた『名城怪談』から一部を抜粋してお届けします。
松の廊下で突然刀を……
松本藩6代藩主の水野忠恒は、江戸城にて8代将軍徳川吉宗に婚儀の報告の為に拝謁する予定であった。
将軍に報告も済ませ、無事に拝謁を終えた水野忠恒が、松の廊下に差し掛かった時のことだった。
次に拝謁する長府藩の世子・毛利師就(もうりもろなり)とすれ違いざま、突然刀を抜いていきなり相手に斬りかかった。
忠臣蔵のシーンでご存じの方も多いと思うけれど、松の廊下では鯉口を斬ること自体が処罰の対象となりご法度。そんな場所での刃傷事件など、絶対に許されない行為だった。
斬り付けられた毛利師就は、突然の出来事に度肝を抜かれたが、刀を抜かずに、鞘で応戦し、忠恒はその場にいた大垣新田藩主の戸田氏房により取り押さえられた。